これまでの仕事遍歴を振り返る パン屋2
そこのパン屋にはミャンマー人の男性がいた。
当時27歳ぐらいで、既に日本人の奥さんと結婚していたため、日本語はペラペラだった。パン屋で働いているのは将来ミャンマーで飲食店を開きたいからだそうだとおばさんから聞いた。
褐色の肌で背がひょろっと長く、何よりイケメンで、彼の近くを通るときはいつも緊張した。
彼とまともに喋ったのはたった一回だったのだが、今でも忘れることが出来ない。
働いていたパン屋では無料でコーヒーをサービスしていたのだが、従業員も飲んでいいことになっていて、彼が飲みにきていた。
私は彼がいることに気づき、所在無さげにじっとしていた。やることもなかったし。
、、、視線をすごく感じていた。明らかに私のことを見ていた。
空気感に耐えきれずちらっと見ると目が合った。そしてそこで話しかけられ、初めて話した。
内容は兄弟いるの?とか私について尋ねる些細な普通の会話だったり、ミャンマーは苗字がなく、全部名前なのだ、と教えてもらったりしたのだが、話の最中はすごくドキドキしていた。
私の本名(苗字)は少し珍しいのだが、「ミャンマーに同じ地名のところあるよ」と言われ、「本当?!」と驚いて言ったらにっこり微笑んでいた。
私は思い切って、「英語で話してもいいですか?」と聞いて、返事も待たず、英語で一方的に話しかけた。
質問に日本語で答えた彼は、
「〇〇さん(本名)の英語は聞き取りやすくわかりやすい。すごくうまい。」
まだ洋楽を聴き始めたばかりの高校生だった私に当時かけられたその言葉はこれから私が英語をちゃんと勉強しようと思うようになったきっかけになった。
彼はそのあと私が出勤した時には辞めていた。理由はわからない。ミャンマーに帰ったのだろう、と周りが言っていた。
それまで私はミャンマーに全く興味がなかったのだが、彼との出会いによりいつか必ず行こうと決めた。私と同じ苗字の場所を探しに。